GeorgのBrave GNU World第16号へようこそ。 ちょっと前の記事でそうしたように、 「即時通信」分野のプロジェクトから始めましょう。
Torrey SearleによるEverybuddy (訳注:「みんな」(everybody)と「なかま」(buddy)のしゃれ) は、即時通信のクライアントです。 これは、 ICQ、 AIM、 Yahoo、 MSNの各プロトコルをサポートします。 単一のクライアントで前のサービスのユーザーと通信できます。 そのときEverybuddyは、 アカウントと交信(相手)の区別をしています。 したがって、 各交信はさまざまなサービスにたいして別々なアカウントを備えることができます。 交信をダブルクリックすると、 アカウントの一覧がみえ、 最初の有効なアカウントがとられます。 たとえばあなたの話している人のICQアカウントが、 理由はともあれオフラインになったとします。 その人がまだAIM経由でつながっていれば、 Everybuddyはバック・グラウンドで完全に自動的にそのアカウントに切り替えるでしょう。 あなたはずっと同じチャット・ウィンドウに書いているだけです。
Torrey Searleによると、 ユーザーに隠すべき小さな欠陥がどのサービスにもあったため、 この自動化の達成は最大の問題のうちの1つだった、 とのことです。
いつものように、 Everybuddyに取り組む複数の開発者たちがいました。 グラフィカル・ユーザー・インターフェースはJared Petersonが作成し、 MSNサポートはShane Brady、 そして、 YahooのサポートはTroy Morrisonが実装しました。 Ben Rigasは、 ウェブ・ページ [5] をデザインしました。
Everybuddyは完全に使用可能で、 開発者によると、 次のステップは、 コードをきれいにすることと、 若干の再編成だとのこと。 また、 色々なプロトコルについてのプラグインへの移行も考えています。 Torrey Searleはいつも時間が足りないので、 手助けは大歓迎です。
次のプロジェクトは、 日本のOkuji Yoshinoriが見つけてくれました。
Akinori ItoによるW3M [6] は、 「more」や「less」に似たページャーかつ、 「Lynx」に似たテキスト・モードのHTMLブラウザです。 このちょっとかわった組合せには、 歴史的なわけがあります。 なぜなら、 作者はもともと、 ある方法でのテキスト・ファイルの表示プログラムが必要だったのです。 数年後にHTMLの必要性のあることがわかり、 追加されました。
坂本 浩則、 Katsuya Okabe、 Fumitoshi Ukaiといった他の開発者たちの協力とともに、 W3Mは、 非常に強力できびきびうごくHTMLブラウザになりました。 これは、 フレームやテーブルを扱うことができ、 日本語をサポートしています。 HTTPSは、 OpenSSLライブラリーでサポートされます。 この多くの機能にもかかわらず、 W3MがLynxよりも小さいのは、 外在化の原理にしたがっているからです。 多くのブラウザは、 1つのプログラムですべてをまかなおうとします。 ちょうど反対に、 W3Mは、 できるだけ外部のプログラムを呼び出します。 これをもっと簡単にするため、 ウェブ・サーバーとは無関係にローカルなCGIスクリプトの実行できる「ローカルCGI」機構があります。
画像を表示することができないという明白な問題をのぞけば、 大きな弱点はない、 と作者たちは思っています。 したがって、 開発は主に国際化に集中しています。 このプロジェクトにかんするすべては、 非常に包括的な印象を与え、 コンソール好きな人や純粋主義者は、 おおいに気に入るでしょう。 ですが、 数ページの文書を「単に」手早く読むには、 「普通」のユーザーもきっと気に入るでしょう。
3番目のプロジェクトも、 読者の大多数のための関心事のはずです。 なぜなら、 Free Software運動には会計ソフトウェアの分野で、 少し欠けていたものがあったからです。
Gnofin [7] は、 「Personal Finance Manager」、 つまり、 あなたの個人会計を管理するために使うものです。 名前から想像のつくように、 GNOMEに基づいています。 とてもきびきびうごくわりには、 多種多様な機能をサポートし、 日常的に使う用意ができています。
Gnofinのもともとのファイル形式は、 全データにアクセス可能なXMLです。 これにより、 あなたのアプリケーションでファイルとの相互作用が可能になります。 QuickenやCBBのためのフィルターもあり、 Gnofinへのりかえるときに、 古いデータを保つことができます。 高度な機能には、 多重の取消しややり直しと同様、 カット、 コピー、 ペーストが含まれます。 注目すべきは、 口座ごとに通貨を別にする能力です。 取引のパラメータとして、 正しい為替レートを単にあたえることになります。
Gnofinの作業の大部分は、 Darin Fisherによりますが、 Luc Saillard、 Olivier Kaloudoff、 Michel Piguel、 Ted Lemon、 Ryan Borenからの助力を得ていました。 そして、 もちろん、 GNU General Public Licenseの条件のもとで利用可能です。 ところで、 Luc Saillardが最近、 新しい管理者としてこれを引き継ぎ、 彼の考えでは、 開発のペースは維持されるだろうとのこと。 今の問題は、 未完の国際化と、 すでに計画中であるプラグインの欠如です。
さてここで、 私は一般的に関心のある分野を離れ、 どちらかといえば普通ではないプロジェクトへ行こうと思います。
ACSの後継者のBayonne [8] が、 最近GNU Projectに入りました。 いくぶん一般的な用語でいえば、 これはいわゆる「電話通信サーバー」なのですが、 音声回線上の発声で通信するほとんどすべてのプログラムをカバーしています。
Bayonneはスクリプトで完全に制御できるので、 まず第1に音声郵便受のようなことができますが、 もちろん通信システムの作成にも使えます。 tdMバス・サポート、 「スイッチング」呼出しやVoIPゲートウェイ・サービスが すでに取り組まれていることもあり、 Bayonneの作者のDavid Sugarは、 「電話通信サーバー」版「スイス軍アーミー・ナイフ」と呼びたがっています。
使用の方法は、 多様です。 まず第1に、 音声制御されたアプリケーションや「留守電」システムがあります。 しかし、 電話を基礎に構築した遠隔システム管理設定、 自動受注システム、 自動世論調査、 声明の発表、 電話経由での警告などの構築も可能でしょう。
SMPシステムを考察にいれてもかなりよい可用性のでる「イベント駆動型多重スレッド」ベースで、 Bayonneは実装されました。 高いスループットや多くの接続のあるアプリケーションで利用できます。 Voicetronixのサポートを書いたDavid Roweが、 David Sugarをささえました。 しかし、 まだやらなければならない作業は多く、 どんな手助けも歓迎です。
Bayonneは単独ではなく、
GNUcommプロジェクト
[9]
の一部です。
GNUcommプロジェクトは、
全マルチメディア通信ソフトウェアのFree Softwareベースの実装に取り組んでいます。
ここは独占ソフトウェアで支配された
大部分の読者にとって、 次の部分の実用的な価値は、 かぎられたものでしょう。 とはいえ、 それでもなお興味深くはあるはずです。
Xnbc [10] は、 生物におけるニューラル・ネットワークのためのシミュレータで、 パリをベースにしたJean-Francois Vibertのチームと彼の学生、 そしてローザンヌの同僚の書いたものです。
これは実際、 単一のプログラムではなく、 むしろある問題を解決するプログラムの集合で、 みなすべてスタンドアロンで実行できます。 これは、 いくぶん使いやすいMotif/Lesstifベースのグラフィカル・ユーザー・インターフェースでくっついています。 現在の構成要素は、 2つの神経エディタ、 2つのネットワーク・エディタ、 薬エディタ、 シミュレータ、 視覚化ツール、 時間と周波数ドメーンの分析ツールを含みます。 また、 グラフィック形式で結果を示してくれるプロット・ツールがいくつもあります。
xnbcにおける最大の利点は、 ユーザがコンピュータをあまり知らなくてもかまわないことであり、 作者によると、 そのおかげで「コンピュータにうぶな神経科学者」が対象集団になっています。 多分このことのために、 xnbcを使用してなされた科学的研究が「Neural Networks」、 「Neuroscience」、 「Physica」、 「Biosystems」や「Nature Medicine」にさえ載っているのでしょう。
xnbcの作業は1989年に始まり、 今では第9版に取り組んでいます。 このリリースでの大きな一歩は、 固有名のつけられた神経伝達物質のサポートとなるでしょうが、 これでネットワーク中で様々な受容器を利用することができます。 また、 イオン・チャンネル・モデルの動的なロードができるようにすることも、 計画中です。
おおっと、 忘れる前に。 xnbcは、 GNU General Public Licenseのもとで公開されています。
最後のは、 Midiフリークには面白いネタかもしれません。
TiMidityは、 元来Tuukka Toivonenの書いたMidiファイルから音声波形式へのコンバータでした。 しかし、 開発の枯れた後、 出雲 正尚 (イヅモ マサナオ) たちが、 改良を始めました。 TiMidity++は今や、 ただのコンバータではなく、 Midiファイルをリアルタイムに高品質での演奏を (しかもソフトウェア・ベースで) おこなう、 プログラムです。
もちろんこれは、 非常にCPU食いのプログラムですが、 かんぺきな演奏にはCPUパワーが足りないときは、 音声を自動的に縮退させて、 ユーザーに多少やさしくします。
TiMidity++ は、 テキスト・ベース同様、 グラフィック・インターフェースでも制御できます。 また、 ネットワーク上でダウンロードや演奏ができ、 プレーバックのアーカイブからMidiファイルを生で抽出できます。 ですから、 いろいろと使い出があるはずです。
ところで、 Paolo Bonzini (Brave GNU Worldを定期的に読んでいる人なら、 この名前はおなじみかもしれませんね) は、 この機能のネタを私に寄せてくれました。 彼は、 実験的なモジュール・ファイルのプレーヤーの拡張にも取り組んでおり、 参加に興味のある全員を歓迎しています。 ホームページ [11] には、 重要なものがほとんど全部あるはずです。
さて、 今月はこのへんで。 私は今回、 哲学的アイデアの詳述ができなかったようですが、 それは、 必要だった静けさや落着きが私に少し足りなかったためです。 きっと次号では戻ってこられるでしょう。 GNUプロジェクトの社会的側面についての私の考えにすばらしいフィードバックをくださったすべての人に、 おおいに感謝したいと思います。 私はこれにちょっと驚いており、 とても気に入りました。
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Last modified: Sun Jun 4 23:42:10 CEST 2000